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プリンスが初めて『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』を聴いた時の反応

80年代のプリンスを支えたバンド、The Revolution(現在再結成してツアー中)のメンバーへのインタビューの中で興味深い内容が語られています。Billboardのサイトに2016年12月に掲載されたインタビューです。

インタビュアー: 『Purple Rain』以降はサイケデリックな方向に音楽が向かいましたが、それはあなた達からの影響なのですか?

Bobby Z.: Matt(Fink)と私が『Sgt. Pepper』を聴かせるまで彼はThe Beatlesをしっかり聴いたことが無かった。だから答えは、そのとおり。そしてWendyとLisaがジャズの領域に彼を導いた。

Bobby Z.とMatt Finkに『Sgt. Pepper』を聴かされるまでプリンスはThe Beatlesをしっかり聴いたことがなかった、という証言です。この点について、『Sgt. Pepper』のリリース50周年記念に合わせて、オルタナティブ系ロックの情報サイトDiffuser.fmが、Bobby Z.とMatt Finkに突っ込んだ質問をして、「
When Prince Heard the Beatles’ ‘Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band’ for the First Time」という記事にしています。

インタビュアー: あなた達のBillboardでのインタビューを読みましたが、ひとつ非常に目を引く内容がありました。あなた達が『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』を聴かせるまでプリンスはThe Beatlesをしっかり聴いたことがなかった(という内容でした)。彼の反応はどうでしたか?あのレコードを初めて聴いた時のことを私はもう一度想像することすらできません。

Bobby Z.: ああ、とてもおもしろい話なんだ。というのも、Matt FinkとDez Dickersonと私はツアーバスの後部に座りながら、『Sgt. Pepper』の全曲を聴いていたんだけど、「A Day in the Life」の前の曲、「Good Morning Good Morning」の動物のノイズの時なんだ。(Bobby Z.がコーラスとノイズを歌う) 様々な種類の動物のノイズや鼻を鳴らす音やなんかが鳴っている。そこに彼が入ってきた。

Matt “Dr.” Fink:(笑い)そうだ。

Bobby Z.: 彼が「これは何だ?」と言ったので、私達は「『Sgt. Pepper』だよ」と答えた。すると彼は「ビートルズ、えっ? 本当に?(The Beatles. Ehhh? Really?)」 ちょうどそんな様子だった。彼が入ってきたので、私達は「だめ、だめ、だめ、だめ、この曲じゃダメだ、最初から聴き直そう」という感じだった。そして、言うまでもなく、彼は忍耐強くなかった。でも、彼は戻ってきて曲を聴いて、もっと良い曲だと気付いたのだろうと思う。そんなに良くはないが、「Good Morning Good Morning」は素晴らしいアルバムの中の変わった曲だからね。

でもその瞬間に、彼はビートルズは彼が思っていた以上のものだと気付いたんだと思う。彼はまさにそれらを飲み込んだようなものだった。『Around the World in a Day』を聴けばわかる。もっと推測すると、彼は腹を立てたのかもしれない。『Magical Mystery Tour』と『Sgt. Pepper』を飲み込んだことが絶対に『Around the World in a Day』に影響を与えていると推測してるよ。

「忍耐強くなかった」ということは「Good Morning Good Morning」の一部だけを聴いてバスから出ていってしまったということなんでしょうか。

インタビューでは時系列的なことが語られていませんが、Matt FinkとDez DickersonとBobby Z.の3人がツアーバスに一緒に乗っているということは、3人がプリンスのバンドに入った1979年頃から、Dez Dickersonが脱退する1983年の『1999』ツアー終了までの間の出来事だと思われます。

へー、そうなのか、面白い話だな、と思いましたが、この話は「しっかり聴いたことがなかった」の「しっかり」の部分が肝なのかな、という気がします。

というのも、2014年にWaxpoeticsのサイトに掲載された、The Revolution結成以前から1981年までプリンスのバンドのベーシストを務めていたAndre Cymoneへのインタビューの中で、ビートルズとプリンスの接点について語られています。

グループ(Grand Central:デビュー前にプリンスが組んでいたバンド)ではThe Beatles や The Association について語っていた。大好きな曲が1曲あって、よくそれを仲間に演奏させようとしていた。彼らはこういった曲を演奏したがらなかったんだ。PrinceとCharlesはJimi Hendrixに夢中だった。私は彼らがサイケデリックな曲やThe Beatles、The Associationを好きになるように仕向けていた。私はJoan Baezの「Diamonds and Rust」が大好きだった。私はグループ内の変わり者だったんだ。

Andre Cymoneは少年時代からのプリンスの親友で、一時は、家庭環境が複雑だったプリンスがAndre Cymoneの家に転がり込む形で同居し、親友であると同時に家族や兄弟のようにプリンスと関わっていた人物です。

少年時代のプリンスにビートルズやサイケデリック・ロックを聴かせて洗脳しようとしたAndre Cymoneの試みは、当時はうまくいかなかったものの、その時に撒かれた種が後にツアーバスの中で「Good Morning Good Morning」を聴いたことをきっかけに芽を出した、ということなのかな、と自分は解釈しました。いずれにせよ、プリンス本人のコメントが無い限りは何も断言できないタイプの話なので、あらためてプリンスの早すぎる旅立ちを悲しく思う毎日です。

『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』とプリンスの接点という点でついでに書いておくと、2002年発表のライブ盤『One Nite Alone… Live!』に付属のブックレットの中に、WNPGという架空のラジオ局のプレイリストという形で60曲程のリストが載っていて、そこに「A Day In The Life」があげられています。

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なぜCubaseはCubaseという名前なのか

音楽制作ソフト(DAW)のネーミングの由来についての記事です。

Logicは論理、なるほど。GarageBandはガレージのバンド、手軽ということで。Liveはライブ、ライブ演奏に強いと。Pro Toolsはプロの道具、たしかに。Sonarは水中音波探知機、はい。じゃぁ、Cubaseは?

自分が漠然と考えていたのは、Cubaseを作っている会社のSteinbergはドイツの会社だから、ドイツ語で何か意味があるのかな?というのと、CueとBassを組み合わせた造語なのかな?という程度のことでした。

ささっとネット検索して調べてみると、「開発段階ではCubitという名前だった」という話が見つかり、「他社商品と名前が競合したので名前を代えた」という説と「フランス語で酷い意味だったので名前を代えた」という説が出てきました。

Steinbergの会社からの公式発表的な情報は見つからなかったんですが、Cubaseの公式BBSにSteinbergの社員のDave Nicholsonさんが2012年にCubaseの名称について投稿しているのを見つけましたので、雑に訳します。

たしかにCubaseは開発段階のバージョン0.808になるまではCubitと呼ばれていた。

Cubitという名前の商品を手がけるデータベース・ソフトウェアのプロバイダーがあったため、名前を変更する必要があり、我々はソフトのリリース後に金のかかる名称変更の訴訟が発生するリスクを取りたくなかった。

Cubit、この言葉の意味「(王の)鼻から、伸ばした指先まで」が、目・マウス・コンピューターの関係性 – 文字どおり、さわれるものは動かせる(原文:what you touch is what you move) – を示しているため、この名前は意識的に選ばれた。

Cubase(の名前)は代替名称として急いで選ばれたもので、人によっては今でもデータベース・プログラムのような響きの名前だと言われる。(Cubitが)フランス語で決してハッピーな名前では無いことを我々は知っているし、当時も知っていた。なぜなのか知りたいのなら、フランス語を母国語として話す人に聞いてみて。

キュビット(Cubit)という言葉、Wikipediaにもしっかりと項目があって、「古代より西洋の各地で使われてきた長さの単位」で「肘から中指の先までの間の長さ」という意味だそうです(上の投稿では”鼻”から指先と書かれてますが、おそらく単純な誤記では)。

強引にまとめると、Cubaseの「Cub」の部分はCubit時代のなごりで、画面内を直感的に操作できるというソフト開発段階の基本理念が込められていて、「ase」の部分は訴訟を避けるために急いで決めたので深い意味はなく、社としては意味を特定しないから自由に想像して、という感じでしょうか。

さて、気になるCubitのフランス語での意味ですが、SteinbergのDaveさんの投稿の直下の投稿にしっかりと意味が書かれていました。

CU: “Cul” 尻のスラング
Bit: “Bite” 男性器のスラング

たしかに決してハッピーな名前では無いですね。

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2004年にRephlexが編纂した『Grime』コンピのリリースパーティーの音源90分

2004年にRephlex Recordsが『Grime』というタイトルのコンピレーション盤を2枚リリースしました。Mark One、Plasticman(現Plastician)、Kode 9、Digital Mystikzといったアーティストの作品がそれぞれ3.4曲ずつ収録されているシンプルな内容で、グライム、ダブステップのシーンをストレートに紹介するものでした(厳密にはこのコンピにはダブステップ的な音が入っていますが、そういうジャンルの細分化に対するアンチテーゼ的な意味と、ダブという語を使うことへの抵抗感などの理由から『Grime』というタイトルにされたそうです)。

そのリリースにあわせてロンドンのクラブThe Endで開催されたリリースパーティーの一部を録音した音源がMixCloudに公開されています。

Mark OneとPlasticmanがDJをしていて、Virus Syndicateの皆さんが調子良くMCしています。ガラの悪そうな声のMCが「リーフレーックス!」と何度も叫んでいるのが違和感あって面白いですね。Mark OneとPlasticmanはRephlexの面々と一緒にアメリカツアーを回ったそうで、他にも『Grime』参加アーティスト勢とRephlexのいつもの面々勢が2つのフロアに分かれてプレイする大きなパーティーなんかも開催されていたそうです。出演者のあいだでも、客のあいだでも、いい感じの文化衝突が起こっていそうです。

『Grime』が出た2004年当時、自分はグライムのこともダブステップのこともよく知らなくて、このコンピもRephlexの知っている面子の参加が無かったので、何故Rephlexがこのコンピを出すのか今ひとつ理解できず、一度も聴くことなくパスしていました。世界的に音源を流通させていたRephlexがこのコンピをまとめてリリースしたことで、ロンドンの地下シーンに溜まっていたエネルギーが世界中の音楽ファンに向けて拡散する大きなきっかけになったのは間違いないでしょう。00年代にRephlexがリリースした作品の中でも意義深い作品のひとつだと思います。

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