とにかく未発表曲や未発表バージョンが11曲入ったディスク2「From The Vault & Previously Unreleased」。これです。
なかでも10曲目の「We Can Fuck」が圧巻です。個人的には今回の4枚のディスクの中にこれ1曲しか入って無かったとしても許せるくらいに震えました。1990年リリースのアルバム『Graffiti Bridge』(以下『GB』と略)に入っている「We Can Funk」の原型的なバージョンで、『GB』版はGeorge Clinton率いるP-Funk軍団とのコラボレーションでしたが、今回収録のものはプリンスがほぼすべての楽器を演奏していて、よりシンプルで生々しいバージョンになっています(ちなみに昔からブートで広く流通しているのは、86年録音の別バージョンです)。
例えば、『GB』版にはP-Funk勢が歌詞やメロディーを追加していて(I’m testing positive for the funk~ のくだりなど)、Fuck版と並べることでP-Funk勢がどこに何を入れて何を歌ったのかが明確になっています。プリンスは再録音にあたってタイトルや歌詞の中のFuckをFunkに変えるなどして表現を丸めているのですが、そこにP-Funk軍団がPeeがどうしたこうしたという歌を追加することで、別の方向に表現を尖らせていて、あらためてGeorge Clintonの凄味というか狂気というかを再確認することもできました。90年前後頃、プリンスは保管庫の中の古い未発表曲のマルチテープを毎日何曲も取り出してきては、自分が聴くためにミックスし直したりサンプリングして新曲に使ったりする作業にハマっていたそうで、『GB』版「We Can Funk」もそういった作業の延長線上に生まれたのだろうと思いました。
1982年発表のThe Timeのセカンド・アルバム『What Time Is It?』に収録されている「777-9311」について、The Timeのギタリスト、Jesse Johnson(現在はD’Angeloのバンドに参加)がFacebookで衝撃の事実を明かしていたことを最近知りました。2014年3月の投稿です。
The Time の「777-9311」はプリンスのLinn LM-1(5,500ドルのドラムマシンで、これはThe Timeの持ち物じゃない)の中に入っていたストックのドラムビートだ。
David Garibaldiの名前が出てきたのにも驚きました。正確には、80%は驚いて20%は納得した、くらいの割合でしょうか。自分はプリンスのドラムにはDavid Garibaldiの影響が大きいんじゃないかと感じていたので、パズルのピースが揃ったような感覚もあります。でも、いくら影響を受けていたり大好きだったりするからといって、その人が作ったドラムのパターンをそのまま曲に使うかどうかは別ですし、そもそも、その人が作ったドラムのパターンがドラムマシンに最初から入っているという状況(1982年に!)が相当にレアです。
彼がドラムの前に座る時、彼にはDavid Garibaldi(Tower of Power)の音が聞こえている。彼がギターを演奏する時は、James Brownのバンドのギタリスト(Jimmy NolenとCatfish Collins)のことを考えている。(略)ベースを演奏する時はLarry Graham(Sly and the Family Stone)のように考えている。彼がキーボードの前にいる時は、ホーン・セクションのことを考えているか、Gary Numanのように考えている。ボーカルに関しては、ものすごい数の影響があるよ。
The TimeのボーカルのMorris Dayはもともとドラマーで、彼がプリンスの学生時代のバンド、Grand Centralにドラマーとして加入するきっかけとなったオーディションで演奏したのが、Morris Dayの大好きなTower of Powerの曲「What is Hip?」だったそうです。
The Timeは「777-9311」のほかにもDavid Garibaldiの要素を直接的に盛り込んだ曲を発表しています。1990年の『Graffiti Bridge』収録の「Release It」で、Tower of Power「Squib Cakes」の曲冒頭の有名なドラムブレイクをそのままサンプリングして使っています。