これでいいのか、1983年プリンスのピアノ弾き語りアルバム

プリンスが1983年に録音していた自宅スタジオでのピアノ弾き語り演奏集「Piano & A Microphone 1983」がリリースされました。

おそらくこれがプリンスの遺族が運営する財団の主導でリリースされる最初のアルバムで、倉庫(The Vault)からの最初の蔵出しアルバム、ということになるのかなと思います(シングルとしては「Nothing Compares 2 U」が最初)。

正直言うと、「本当にこれでいいの?」というのが、このアルバムのリリースを知ったときと聴いたときの感想です。数えきれない未発表曲とリハーサルの録音テープが眠る倉庫からの最初の蔵出し作品が、YouTubeで誰でも簡単に聴けるような、海賊盤として大昔から流出済みの音源で、音質についても劇的な改善があるわけでもなく、カセットテープの音質そのまま。「本当にこれでいいの?」です。

財団がこれを第一弾に持ってきたことには財団なりの理屈があるのは十分に理解できます。確かに最後のツアーはピアノ弾き語りライブでしたし、プリンスの違う側面を見てもらいたい気持ちもわかります。しかし、これを出す前にあれを出すべきでしょう、いやいや、存在すら知られていないようなものを出して驚かせてよ、というような自分の気持ちを抑えるのは難しいです。

今回の「Piano & A Microphone 1983」についての財団の判断が何もかも良くないということではなくて、ジャケットのデザインは素晴らしいですし、「Mary Don’t You Weep」のミュージック・ビデオも、故人のビデオによくある過去映像の切り貼りではなくて、メッセージ性のある完全な新作映像を若手監督に撮らせるような積極性はとても良いと思います。音楽の部分については言うまでもなく、ライブでのピアノコーナーを愛する者の一人としては、プリンスのファンキーなピアノが聴ける待望の内容であることは間違いないです。あと、アルバムにボーナストラックや別日のピアノ弾き語り録音をくっつけていないのも好感度高いです。

こうして書いて頭の中を整理していく過程でよくわかったんですけど、この心理状況は完全にワガママなファンの心理で、あんまりこの方向で「運営のあるべき姿」みたいなものを生真面目に求めていくような姿勢でプリンスの財団と向き合っても何ひとつ幸福なことは無いので、好きなアーティストが亡くなった後にも新曲がリリースされ続ける予定であることの幸福と、その異常な状況を面白がる気持ちを常に忘れずに、今後のプリンスの新作を楽しんでいきたいなと思いました。