2019-08-15
matsutake
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プリンスが他人に提供した曲を自分で歌っているバージョンをまとめたアルバム「Originals」がリリースされました。
このアルバムに関連して一番言いたいことを一番最初に書いておくと、「Originals」に収録された曲の、それぞれ提供された人たちのバージョンも全部素晴らしいので、そっちもぜひ聴いて欲しいです。なので、権利者の皆さんには今すぐにでもそれらを再発してもらって、誰でも簡単に聴けるようにして欲しいです。
ということで、「Originals」の中で個人的な聴きどころポイントBEST 3を選んで、ツラツラと勝手に書き記しておきたいと思います。
3位 – 全然アレンジが違う「Nothing Compares 2 U」
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この曲の初出(1985年)となるThe Familyのバージョン はストリングス(弦楽器隊とDX-7)とサックスの音しか入ってなくて、バンド演奏風の「Originals」収録版とは全然アレンジが違います。
「Nothing Compares 2 U」は84年の夏に解散したThe Timeの後釜プロジェクトとして始動したThe Familyのために作られた曲で、バンド演奏風バージョンが録音された後にミックスの試行錯誤が繰り返され、結局は自分で録音した音をザックリと削除し、代わりにクレア・フィッシャーによるストリングスアレンジを大々的にフィーチャーした形でリリースされました(このThe Familyのプロジェクトが両者の最初のコラボレーションです)。
ちなみに「Nothing Compares 2 U」は当時プリンスが付き合っていたThe Familyのボーカル、スーザン・メルヴォワンのことを歌っていると言われますが、その根拠は無く、プリンスがこの曲を録音するのをサポートしていたエンジニアのスーザン・ロジャースは、この曲はプリンスの長年の家政婦が仕事を辞めたことにインスパイアされた曲だと言っており、また、The Familyのメンバーのジェロームは、当時プリンスに相談していた自分自身の恋愛事情が歌詞になっていると主張しています。
2位 – かなり本気で歌ってる「Baby You’re A Trip」
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ジル・ジョーンズのデビューアルバム(1987年)に収録された曲ですが、1982年にはすでに録音されていたという話です。曲のアウトロに1分近くボーカルが自由自在に強く弱く上へ下へと動きまくるパートがあり、圧巻です。アウトロ部分に限らず、ボーカリストとしてのプリンスの技術が全編でじっくり堪能できます。
「Originals」で聴けるプリンスのボーカルトラックは、明らかに仮歌用やガイドボーカル用として録音されているように聴こえるものがほとんどで、ちょっと肩の力が抜けていたり、録音の詰めが甘かったりするのですが、「Baby You’re A Trip」に関しては、自分のアルバム用に録音していたのではと感じる高クオリティな内容です。そして、そのプリンスのボーカルガイドに従いながらも、しっかり自分の個性を注入して歌っているジル版を聞き直し、彼女の技術の高さに気づくこともできました。ジル・ジョーンズはプリンス関連以外の仕事だと、坂本龍一の「You Do Me」 で歌ってるのが日本では有名ですね。
上の「Nothing Compares 2 U」ほどでは無いにせよ、トラックのほうもジル版とは異なっていて、「Originals」版はシンセとオルガンの中間的なキーボード音がアレンジの中心となってますが、ジル版ではこの音はほとんどカットされていて、その代わりにピアノの音やクレア・フィッシャー(再び登場)がアレンジしたストリングスやホーンが入っています。ドラムも「Originals」版はLM-1丸出しのノン・エフェクトで、ジル版には各ドラム音に丁寧に空間系エフェクトが施されていて、80年代後半の時代感覚が濃厚です。
この傾向は「Originals」の全体にあって、アルバムをサラッと聴くと「デモの段階からしっかり作り込んであるんだなー、なんならこれで普通にリリースできるし、正直こっちのほうがいいんじゃないの?」と感じる人も多くいるだろうとも思うのですが、提供された人たちの完成曲と比較しながら聴くと、完成、つまり商品化に向けて、時代に合わせた細心のチューニングがじっくり行われていたことがわかります。
1位 – Jay-Zのゴリ押しで収録された「Love… Thy Will Be Done」
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このアルバム収録の唯一の90年代曲です。少々場違いな雰囲気がありますが、アルバムを企画した音楽配信サイトTIDALのボスであるJay-Zがゴリ押ししたから入ったんだそうで(Jay-Zがゴリ押ししたのは、この曲と「Jugle Love」だったそうです)、個人的にはJay-Zグッジョブ!という感じです。
「Love… Thy Will Be Done」はビルボード1位のヒット曲「Toy Soldiers」(1989年)で知られるキューバ系女性歌手マルティカに提供された曲で、作詞はマルティカとプリンスの共作。なんでも「Toy Soldiers」大ヒット後に次のアルバム制作に行き詰まっていたマルティカが、プリンスの映画「Graffiti Bridge」を見てえらく感銘を受け(6回も見に行ったとか)、ミネアポリスまでアイデアノート持参で共作を直訴しに行った結果生まれたのが、この「Love… Thy Will Be Done」なんだそうです。
この曲はプリンスの作品の中でもかなり珍しい曲で、他のアーティストの曲を2小節ぶんサンプリングして、それをずーっとループさせて土台としている、ヒップホップっぽい発想で作られている曲です。ちょっと考えてますが、他にこういう作りのプリンスの曲は思い出せないですね。サンプリングされているのはCocteau Twinsの「Fifty-fifty Clown」という曲です。
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イントロのドラムが入る前のベースと僅かに聞こえるシンセを2小節丸々ループし続けています(弾き直して再現してる可能性はありますが、土台にしてることは間違いないと思います)。マルティカ版 が後半に向かって徐々にストリングス系のシンセ音を厚く重ねることで曲にメリハリをつけているのに対して、プリンス版のほうはトラックに大した変動はなく、自分の声による魅惑の多重録音コーラスだけで後半を盛り上げていきます。このメリハリの薄さが昨今のアンビエントR&Bを先駆けているようで、また、インディ・ロックのサンプリングを土台にしていると言う点でもかなり現代的なセンスで、Jay-Zがこの曲にこだわったのも納得できます。
さて、プリンスの財団で保管庫を管理している人(アーキビスト)の最新のインタビュー を読むと、どうも保管庫の内容のリリース順に関して大局的なヴィジョンがあるわけではなく、ジャブを打って世間の反応を読みつつ次の一手を考える、というようなスタンスでやっていて、例えば今回の「Originals」は、18年4月にリリースされた「Nothing Compares 2 U」のシングルが好評だったことを受けての企画だったと明かされています。財団は保管庫の中の録音物を全部リリースするという考え方にも否定的で、このリリースのペースだと、自分が死ぬまでに自分が聴きたいものが全部聴けるかどうか、非常にあやしいところです。
次はまだ誰も聴いたことがない未発表曲のリリースをおねがいします!あと、関連アーティストたちのアルバムの再発も!