音楽系ドキュメンタリーやドラマで最近良かったもの6本 – 優勝はウータン・クランの伝記ドラマ

最近サブスクの映像配信サイトで音楽系の番組をたくさん見ているので、良かったものをまとめておきます。こういうのをまとめるのにはSNSよりもブログが向いてますね。

アトランタ – シーズン3/ Atlanta Season 3

チャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローバー制作総指揮、監督、脚本、主演のドラマのシーズン3。駆け出しラッパーとマネージャーの日常をオフビートのコメディタッチで描いたシーズン1、2に対して、シーズン3は「これ、今見てるのは本当に『アトランタ』なの?『ブラック・ミラー』じゃなくて?」というような実験的な内容のエピソードが続きます。昨日今日くらいからアメリカでは最終シーズンのシーズン4が公開されたところです。DIsney+で見ました。

リゾのビッグスター発掘 / Lizzo’s Watch Out For The Big Grrrls

Lizzoが自分のライブのバックダンサーをオーディションする番組。アメリカの定番リアリティ番組的なエンタメの皮をかぶっていますが、その実態は、Lizzoが日頃アーティストとして発信し続けているボディポジティヴ、セクシュアリティ、自己肯定、人種などのメッセージを超絶わかりやすい形に凝縮した、超社会的・政治的な教育番組です。多くの視聴者の人生になんらかの影響を与えるんじゃないでしょうか。エミー賞獲得も納得です。Amazonプライムビデオで見ました。

とんでもカオス!: ウッドストック1999 / Trainwreck Woodstock’99

悪名高い1999年のウッドストック・フェスのドキュメンタリー。失敗フェス物という点で、名作ドキュメンタリー「FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー」にかなり近いものがあって、3部構成の第2部までは「FYRE」のように半笑い感覚で楽しく見れるのですが、第3部に入ったところで完全に次元が切り替わります。Netflixで見ました。

jeen-yuhs カニエ・ウェスト3部作 / jeen-yuhs

1998年、売れる前のカニエと出会った監督が、そのスター性に惚れ込んでドキュメンタリーの制作を開始し、現在まで続いていた密着撮影の膨大な時間の映像を、コロナのロックダウン期間中に編集して280分にまとめたのが本作です。プロデューサーとしては早くから高く評価されていたものの、ラッパーとしてはまったく認めてもらえない中で雑に扱われるカニエ、それでも営業しまくるカニエ、自信を失わないカニエ、そして成功を手にするカニエ、調子に乗るカニエ、それぞれの場面にしっかりカメラが密着しています。Netflixで見ました。

セックス・ピストルズ / Pistol

セックス・ピストルズの伝記を、スティーヴ・ジョーンズの本をもとにダニー・ボイルが監督で全6話のドラマ化。ピストルズ本体のサクセスストーリー的な部分よりも、マルコム・マクラーレンやヴィヴィアン・ウエストウッド、両者の店で働く女性達(クリッシー・ハインド!)のような、バンドの影に隠れた重要人物達が描かれている部分に新しさがあります。バンド伝記物の映像作品は、時間軸をねじ曲げて無理矢理120分の映画枠にまとめるよりも、このような連続ドラマ形式にまとめるほうが適しているのではないでしょうか。今後は全部これで行きましょう。DIsney+で見ました。

ウータン・クラン:アメリカン・サーガ / Wu-Tang: An American Saga

ウータン・クランの伝記を、RZAの本をもとにメンバーが監修で連続ドラマ化。そもそもウータン・クラン自体が虚実が混ざったような存在なので、虚に行き過ぎても、実に行き過ぎても、どっちに行っても興ざめだなと思っていたので、正直あまり期待せずに見始めてみたら、これがメチャクチャ面白い! ドラマを盛り上げるためにはしっかり話を盛るけど、ウータンの核にある音楽やヒップホップについては丁寧に描く、虚実のさじ加減がバッチリです。世の中にヒップホップをテーマにした映像作品は山ほどありますが、こんなにしっかりSP-1200やASR-10を取り上げている作品は他にあったでしょうか。音楽を制作することに対するリスペクトがストーリー全体に溢れています。シーズン2にはサンプリングやミックスを試行錯誤するRZAの頭の中を表現したエピソードがあり、あれは歴史に残る映像でしょう。今回の優勝作品です。DIsney+で見ました。

2021年ベストミュージック

2021年に発表された音楽の中から、よく聴いた10作品を選びました。

Beak> – Oh Know

Beak>は最高の音響で最高のメロディで最高のコンビネーションのロックバンドですね。

Equinoxx – Basic Tools (Mixtape)

ジャマイカ在住(今でも?すごい!)のヘンテコダンスホール。各メンバーや関連アーティストのソロ作も軒並み全部少し変で良かったです。

Facta – Blush

90年代に自分がインテリジェンステクノ、アンビエント、トリップホップに求めていた、それらの中間地点的なチルアウト感がここに生み出されてました。シングルやEPで出てるFMシンセ大活躍のダンストラック群も素晴らしい。

Roman Flugel – Eating Darkness

ロックダウン期にDJ仕事を全部断ってワクチン摂取センターで週30時間バイトをしていたエピソードに胸熱くなる、ベテランからの「stay positive and not be eaten by darkness」というメッセージ。

ザ・ビートルズ:Get Back

ビートルズが七転八倒してバチバチ衝突しながら歌詞やメロディやアレンジをひねり出している生々しい映像が6時間も見れる。6時間も。何かを作ろうという時はビートルズですらこんなに無様に苦労している!

Kiefer – When There’s Love Around

ローファイなヒップホップビートに本格的なジャジィなキーボード…というこれまでのイメージを求めて聴き始めたら…うまい牛丼を食べに来たつもりが、気がついたら料亭ですき焼き食べてるような感じ。

μ-Ziq & Mrs Jynx – Secret Garden

最近のμ-Ziqことマイク・パラディナスさんの仕事、ミュージシャンとしてもレーベルオーナーとしても、何やってもクオリティが高過ぎじゃないですか。インスタではなぜか全身黒で決めた私服姿を不定期に発信中(→Instagram)。

Eris Drew – Quivering In Time

これぞバレアリック。楽しくて柔らかいレイヴ・ミュージック。近年一番期待していたアルバムが期待以上の内容でした。

Coldcut & Mixmaster Morris – @0

Coldcut がアンビエントをテーマにコンピレーションアルバムを選曲し、そこにMixmaster Morrisが一緒になってミックス音源(→Spotify →YouTube)までついてくる、まさにユートピアでしょう。

Chande b2b Gracie T | BR London: Yung Singh Pres. Daytimers

80年代UKのインド人コミュニティが昼に行っていたパーティー「Daytimer」を再現するUKグライム系イベントの動画で、皆が一斉に手を上げ、頭を振り、曲をリワインドして何度も聴き直す、荒っぽいミックス。熱気の塊。

リアルな問題として、レコード屋やクラブ、ライブハウスが閉店し、ミュージシャンや裏方さんが廃業していく。ここに光があるのではないかと去年は盛んだった音楽配信も今ひとつ定着とは言い難い現状で、そんな中でも腐らずに動いている皆さんをどうやったらサポートできるか模索する毎日です。

そんなこんなで、よく聴いた曲をガサっとSpotifyにまとめたので、新しい音楽との出会いのきっかけになれば嬉しいです。

2020年ベストミュージック

2020年に発表された音楽の中から、よく聴いた10作品を選びました。

Phoebe Bridgers – Punisher

透明な歌声とその佇まいに反した意味不明なステージ衣装、ひっかかりだらけの歌詞、LA出身シンガーソングライターの2ndアルバム。

Hologram Teen – Pizza Conspiracy

元ステレオラブが作るサンプリング・ミュージックが面白くないわけがない。

Shinichi Atobe – Yes

無駄ゼロ、バランス完璧なハウス・ミュージック。

John Carroll Kirby – My Garden

ソランジュのアンビエントR&Bな近作に深く関わっていたプロデューサーのソロアルバム。今にピッタリなニューエイジ感とフュージョン感。

Koolade – The Hop

P-Funkハウス。このベースラインのセンスにひれ伏します。

Against All Logic – 2017 – 2019

Nicolas Jaarの実験プロジェクト。AllのLogicにAgainstしてるのに不思議なほどにダンサブル。

Kate NV – Room for the Moon

80年代のセゾン文化のあの感じを現代に再興させるためにロシアから送り込まれた刺客。

Quakers – II The Next Wave

Portishead周辺がStones Throw周辺とつるんで大暴れするQuakersプロジェクト、8年ぶりのアルバム。ビート集も最高でした。

Eris Drew – Fluids of Emotion

90年代のアンビエントハウス心とトリップホップ心を見事に融合させて現代に復活させてる。Octo Octaの盟友。

Prince – Sign O’ The Times (Super Deluxe)

このクオリティーでどんどんアーカイブ再発を続けていってください。

はい、コロナ禍ですね。田舎に住んでるので、ほいほいと都会のレコード屋に出かけていくこともできず、クラブやライブハウスも遠のいてしまい、音楽の「現場」が自分の部屋のスピーカー前だけになってしまいました。音楽もニューノーマルの確立を目指して前進するべきなのか、いやそうじゃなくて、あくまでかつてのノーマルを取り戻すために戦うべきなのか。その中間は有り得るのか。音楽、一体どうなるんでしょう。心配です。

ということで、ステイホームのこの一年の間、大・大・大活躍したSpotifyを使って、よく聴いた曲を思いつく限り放り込んだプレイリストを作ったので、ぜひ聴いてみてください。